清遠市の旅


清遠市


青丸が清遠市です。

2009年5月28日
   早朝、5:55に起床。
 というか、Zの「起きろ!」の声に起こされた。久しぶりの旅行にやる気満々のようである。
 準備された水餃子の朝食を食べて、アパートを出発した(6:45)。
 まず近所のバス停でバスに乗車(2RMB/人)し、この街にある二つのバス・ステーションのうちの一つに向かった。 路上ではあちこちでバイタクが客を求めて走り回っている。時間が早いせいか、乗用車は少ない。考えてみれば、いつもの私の出勤時間まであと10分ぐらいある。
 6:55、バス・ステーションに到着。広州に行くときはいつも利用しているバス・ステーションだ。最近、ダイヤというかルートがやや不安定になっていて、以前は必ず(広州)省バス・ステーションが終着点だったのが、時によって市バス・ステーションになったり、省バス・ステーションになったりとどちらに着くのかがわからない 。
 チケット(55RMB/人)を買って、待合室に入る。入口を入ってすぐのところで荷物チェック。荷物検査用のベルトコンベアの上にリュックを載せて、検査機から出てきたところで受け取った。数年前ぐらいまでは、バス・ステーションでのこういった検査はおざなりで形ばかりのものが多かった。大抵の検査員はコンピュータの画面を見ることもなく、居眠りしている時間が大半といった具合だった。しかし、最近はテロが増えてきたこと、景気が悪いことから世情が不安定になり暴動等が増加していることから、検査員が見違えるぐらい真面目に検査に取り組んでいる様子が伺える。本日も例外ではなく、検査員は取りこぼしがないように、来る客来る客に、荷物をきちんと検査機に通すように指示していた。
 待合室にいる客は12,3人ほど、どの会社も端午節の休みだというのに少ない。朝早いためだろうか。しかし、Zに誘われて、早めにバスに乗車してみると、50席近くある席の半分がすでに埋まっていた。さらに、発車時刻の7:20分になると全ての席が乗客でいっぱいになった。やはり、休日を利用して出かける人が少なくないのだ。
 7:25、5分遅れて発車。 最近、パスポートの更新で二回ほど広州へ行ったのだが、以前にあった車内でのミネラルウォータの無料支給がなくなっていた。今日も無し。ということは一時的な現象ではなく、支給をとりやめたのだろう。支給されるミネラルウォータは無名メーカーのものがほとんどだから、安全面を考えて私は滅多に飲んだことがなく、いつも乗車前に購入しておいたジュース等を飲んでいた。だから、支給を取りやめることで運賃の上昇を抑えられるなら大歓迎だ。しかし、今日はなぜか飲料の購入を忘れてしまい、喉が渇いてしかたがない。無名メーカーのものでも良いから一口頂きたいところだ。だが、ないものはない。渇きを我慢して、広州に着くまで寝てしまうことにした。

 8:45、広州省バス・ステーションの2Fに到着。2Fにある簡易チケット売り場で、清遠行きのチケット(36RMB)を購入した。9:00発のチケットだ。 あまり時間がない。2Fのゲートを隅から順に見ていったが、番号から判断するところでは、清遠行きのゲートは1Fのようだ。「間に合わないかもしれない」と心配するZを「大丈夫、大丈夫」と安心させて1Fへと小走りで向った。
 これまでこの省ステーションを何度か利用してきたが、1Fから出発するのは記憶にある限りでは初めてだ。しかし、心配するまでもなく、清遠行きのゲートはあっさりと見つかった。ゲートがすでに開いていたので、チケットの半券をスタッフにもぎってもらい、すぐに乗車した。座席はすでにほぼ埋まっていたので、後方に座った。
 9:00、発車。またもや飲料を買い損なってしまった。あらら困ったと思っていたら、添乗員がミネラルウォータを持って配り始めた。ラッキー。ミネラルウォーターの支給が停止されたのは、私たちの街から広州までだけだったようだ。しかも、配られたミネラルウォーターは大手の「娃哈哈」というメーカーのものだ・・・と思ったら、似た模様のラベルがついた無名メーカーの品物だった。ちょっと嫌な感じだが、背に腹はかえられない。ごくごくとニ、三口飲んだ。これで後は我慢だ。というか、寝る。

   清遠市に入ったばかりのところで、眼が覚めた。私は決して寝つきの良い方ではなく、夜はいつも眠るのに苦労しているのだが、バスや飛行機の中ではコロッと寝入ってしまう。これが列車の寝台だとそうでもなく、意外に寝付かれなかったりするから不思議だ。原因は全く不明・・・。
 バスがガソリンスタンドに入ったから休憩かと思ったが、そうではなくガソリンを補充するだけで、乗客は降りることができなかった。コンビニが併設されている真新しいガソリンスタンドだ。ボーっとしながら、外を見ていると、給油機の上部に「自助加油」と描かれているのに気づいた。おっ、セルフ給油式スタンドだ。中国 でも導入されていたんだ。いつから導入されているのだろう。全然気づかなかった。アパートに戻ったら、インターネットで調べてみるとしよう。

 10:15、清遠バス・ステーションに到着。広州に近い都市だから、真新しいバス・ステーションかと思ったら、構内は意外にも古ぼけた感じだった。空調もないようで、天井から巨大なプロペラ式の扇風機がいくつもぶら下がっていた。待合室を抜けて外へ出るとさっそくタクシーやバイタクの客引きが始まった。「どこに行くんだ?どこに行くんだ?」とうるさい。
 いつもなら、まずホテル探しとなるのだが、今回は直接「黄騰峡漂流」へ向かうことに決めていた。 その理由の一つは日帰りが可能かどうかを確かめたかったからだ。出張者の人を連れてくるには、一泊二日でも可能だが、土曜日に出発して日曜日に返ってくるとなるとやや不安だ。広東省内だから、何らかのトラブルがあったとしてもタクシーで帰れば問題はないだろうが、やはり安全をとって土曜日のうちに連れて帰りたい。出張中に遅刻や欠勤なんてことになったら、目も当てられないことになるからだ。もう一つは今日の天気。まだ雨は降り出していないが、今にも崩れだしそうである。激流下りということだから、全身ずぶ濡れになる覚悟で着替えはもってきてある。しかし、豪雨の中、川下りというのは避けたい。ホテルに寄っていたら「黄騰峡漂流」の場所へ着くのが1時間は遅れるだろうから、その間に天候が崩れては大変だ。ホテルは後回しに したほうがいいだろう。
 できればバスで行きたいが、インターネットで調べた限り「黄騰峡漂流」の場所へ向かうバスはなく、タクシーで行くのが一般的らしい。料金は30RMBと書いてあった。バイタクという手もある。ただ、距離があるとバイタクはきつい。Zと二人で後部座席に乗るとなればなおさらだ。
 とりあえず、目に入った運ちゃんに、 「『黄騰峡漂流』までいくら?」と聞いてみると、 「50RMB」と自信ありげな顔とともに答えが返ってきた。
 「高いわね。30RMBって聞いてるわよ」とZが文句をいう。
 「今日は端午節だからな」と運転手は動じず、応えた。
 納得がいかないZは、バス・ステーションにテナントで入っているお店の店員に 「『黄騰峡漂流』までっていくらぐらいなの?」と尋ねるが、「今日は端午節だから高いわよ」と返答をもらっただけだった。諦めた私たちは、道路を渡ったところに停車していたタクシーと料金交渉を始めた。運転手の言い値はさきほどと同じ50RMB。それをなんとか40RMBで負けさせた。とにかく、出発だ。 
 

清遠バス・ステーション

 タクシーに乗車してすぐに私は「黄騰峡漂流」の場所までの簡易地図を取り出した(10:27)。インターネットで見つけたものだ。地図でみると、バス・ステーションからは、河を越えたすぐのところにある。これで40RMBは高すぎるのではないかと思われた。Zもそう考えたらしく、運転手に向かって、「『黄騰峡漂流』って、結構近いわね」と話しかけた。しかし、運転手は聞こえていないのか、無反応であった。Zはもう一度、同じことを告げた。しかし、やはり答えが返ってこない。完全に無視されている。観光客の質問攻めにはうんざりしているのかもしれない。Zは「ひどいわ」と言って、押し黙った。
 タクシーは大きな橋を渡って、河を越えた。私が持ってきた簡易地図は縮尺が大きく歪められているらしく、 「黄騰峡漂流」まで思ったよりずっと距離があった。田園地帯をどんどん奥へ入っていく。とてもバスが通っていそうもない。これだと帰りの足に困りそうだ。

  10:47、 「黄騰峡漂流」の駐車場に到着。帰りの手段が明らかでないから、運転手の電話番号を聞いておいて迎えに来てもらうことも考えたが、あまりに愛想がないのでやめた。今日は端午節だから、きっと運転手としても、もっと遠距離に向かう客が欲しいのだろう。
  駐車場から奥へ入ると、広場があり、手前の一角に建物があった。「貴賓大庁」と入口の上部に書かれている。盛んに人が出入りしている様子からすると、そこにチケット売り場がありそうだ。中に入ると、案の定ロビーの左側にチケット売り場が見えた。
  窓口のガラスに料金表が印刷されている。「勇猛漂流」が260RMB、「猛士漂流」が178RMB、「勇士漂流」が138RMとなっている。事前に調べた情報によると、まず下流に「 勇士漂流」がオープンし、その後、その上流に「猛士漂流」がオープンした。そして、上流から下流まで一気に楽しむと「勇猛漂流」となるらしい。ツアーなどでは、上流もしくは下流のどちらかのコースのみということが多いようだ。私たちはもちろん、「勇猛漂流」のチケットを買う。わざわざ来たのに、全部を楽しまない手はない。実のところ、Zに意見を聞いたりすると、どちらか片方でいいという話になるから、最初から「勇猛漂流」で押し切った。
  すぐに出発かなと思ったら、開始は午後1:00だという。その時間にバスが来るから広場で待っているようにとチケット売り場のスタッフに言われた。そんな馬鹿なと思って聞き返したが、次のバスが来るのはやはり1:00だそうだ。まだ二時間以上もある。仕方ない。食事でもして時間をつぶすことにしよう。
 食事の前に、ロビーの真ん中に設置されているインフォメーション・デスクで、手荷物の保管や着替えについて尋ねた。着替えに使うシャワー室は無料。インフォメーション・デスクに向かって左側が男性用、右側が女性用とのこと。手荷物は貴重品の保管が10RMB。普通のは5RMBだと言われた。貴重品と普通の品の取り扱いの違いがわからないが、今深く考える必要もないだろう。使うときにわかるに違いない。

黄騰峡漂流の入口付近

 チケット売り場のある建物のすぐそばにレストランがあるのだが、Zが「きっと高いし、不味い」というので、駐車場の外まで他のレストランを探しに行った。山の中にある観光地のレストランは馬鹿高いところが多いから、少しでも外れにあるところで食事所を探そうという心理だろう。
 しかし、駐車場の先を10分以上歩いても、食べ物屋がある様子はない。このままずっと歩いていては、2時間などあっという間に経ってしまい食事どころではなくなってしまう。 「もう、戻ってさっきのレストランで食べようよ」と促すと、あっさり「わかった」と同意が得られた。きっとお腹が空いてきたのだろう。
 広場に戻って入ったレストランは想像以上に広かった(11:08)。テーブルも多く、結婚式場並だ。すでにツアー客の団体が席の半分ぐらいを埋めているが、まだ料理は一つも出されていない。注文前らしく、ウェイトレスが二人伝票を持って、テーブルの間を走り回っている。これでは当分の間、私たちの順番が来ることはないだろう。
 待つこと20分、いい加減うんざりして来た頃、ウェイトレスが注文を取りに来た。清遠市の名物は鶏料理だ というから、石焼の鶏ナントカというのと野菜料理を注文した。注文したものの、案の定料理が出てこない。ツアー客のテーブルではウェイトレスの代わりにガイドが注文をとりに回ったりしているし、個人客らしきグループのいくつは席を立って出て行ってしまった。Zまでも「もう待てないわ。私たちも出よう」と言い出し始めたのをなんとかなだめて我慢させた。
 12:00、ようやく鶏料理がやってきた。特産というだけあって味は良かった。育て方が違うのだろうか?野菜料理のほうは待っても出てきそうもないので、キャンセルし、清算した。12:11、レストランを出て、再びチケット売り場の建物に向かった。

入口そばのレストラン

 建物のロビーに入ると、私は向かって左側にある部屋に、Zは右側の部屋に入っていった。部屋には手前にコインロッカーがあり、右手がトイレ、左手がシャワー室になっていた。更衣専用の部屋というのはないようだったので、シャワー室の一つに入った。手早く短パンとTシャツに着替る。現金とかパスポートはどうするか。今回は防水ポーチも持ってきたので、身に着けていくこともできる。しばらく迷った 後、結局貴重品箱に預けていくことに決めた。わずか数時間のことだし、大丈夫だろう(多分)。
 ロビーへ戻るとZはすでに着替えを終えて待っていた。「荷物どうしたの?」と尋ねると、「私のリュックは普通の荷物を預けるロッカーの方に入れちゃったわよ」と答えた。聞くと、普通の品物を預けるのは更衣室に設置されているコインロッカーで、ロビーの奥にあるカウンターで5RMBを支払い専用のコインを受け取って使用するのだそうである。貴重品は同じカウンターで10RMBを払って直接荷物を預け、カウンター内に設置されているロッカーに収納される とのこと。
 それでは私のは貴重品の方へ預けることにしようと10RMBを支払ってカウンターのスタッフにリュックを渡した。スタッフはすぐに受け取ったリュックを後のロッカーへ入れようとしたが、大きくて入らない。振り返って、「入らないわ。荷物を減らしてちょうだい」と私に告げた。リュックの中身は大半が衣服であるから、減らすのは簡単だ。問題は取り出した衣服をしまう場所だ。Zのリュックには化粧品以外ぐらいしか入っていないから、そこへ入れるのがベストだが、あいにくすでにロッカーへ収納されてしまっている。
 「Z、もう一度リュックだせない?」
 「駄目よ。さっき、ロッカーは一度しか取り出せないって言ってたわ」
 そう言えば、そんなことを言っていた。そうなると、もう一個ロッカーを借りるしかない。わずか5RMBのことだが、癪に障る。カウンターのスタッフに向かって、なんとか入らないかなと頼んでみるが、「大きすぎて駄目」と首を振られた。やむなく、5RMBを払って、もう一つロッカーを借りることになった。

 荷物を預けたら、後は出発を待つのみ。外へ出て広場の真ん中をうろうろしていると、「黄騰峡漂流」のスタッフらしき人から声がかかった。「こっちよ、こっち」。手招きをしている。そちらへと寄っていってみると、簡単な屋根がかかった空間があり、その中が鉄パイプで仕切られ、人が順番に並ぶようになっていた。空いた場所には長いベンチがいくつか置かれてあり、すでに十人前後の男たちがバスが来るのを待ちかねている様子でワイワイと騒いでいる。男たちは皆、裸に水着一つ身に着けているだけである。足もとはビーチサンダルすらはかず、全くの裸足。短パンとTシャツだけとは言え、普通の姿の私たちがおかしな格好をしているみたいだ。
   1時近くなり、バスがやってきたので乗車。広場に散っていた客たちも集まりだし、バスは瞬く間に満員となった。やはり水着の人が多かったが、3分の1ぐらいは私たちと同様短パンとTシャツの姿である。恐らくツアー客は水着を準備しておくように出発前に指示があったのだろう。
 バスは出発し、2車線ほどの道路をぐんぐん登りだした。すぐ右手の下が川下りの場所で、ボートに乗って下ってくる人たちの姿が見られた。川は大きくなかったが、水の勢いが強く、存分に刺激を味わえそうだった。期待に胸が高まる。

バスに乗って川下りの始発点に向かって出発

 バスは川に沿って十数分ほど走った後、ゆっくりと停車した。中間地点から出発する「勇士漂流」の起点である。半分以上の客がここで降りた。再び出発したバスはまた、うねうねと川に沿っ て走る道路を登っていく。以前に行った 徳慶の「盤龍峡」のときは、川下りの起点まで行くのに途中まではバスで、その後けっこうな距離を歩いた。川に沿って美しい山中を歩くのがなかなか楽しかったのだが、ここの川下りはバスでいきなり起点まで行ってしまうようだ。ちょっと残念。
 

黄騰峡漂流(勇猛漂流)の起点

 次にバスが止まったのが、「猛士漂流」の起点。同時に「勇猛漂流」の起点でもある。水をせき止めている小さなダムには大きな字で「黄騰峡漂流」と描かれていた。このダムが水流をコントロールし、流れる水の速度を安定させる役目を果たしているのだろう。
 入口は左右に分かれており、向かって右側が
「猛士漂流(上流)」のチケットを持った客用、左側が「勇猛漂流(上流と下流)」のチケットを持った客用のゲートとなっている。ゲートの出口は一緒。どこが違うかと言うと、ゲート内で手渡される救命具の色である。「 猛士漂流(上流)」用が黄色、「勇猛漂流(上流と下流)」が青色となっているのだ。川は上流から下流まで一続きになっているから、わかりやすい目印がないと「 猛士漂流(上流)」の客が中間地点で外へ出ず、そのまま下流まで行ってしまうことも可能になる。救命具の色でどのチケットを購入したかを判断できれば、下流に黄色の救命具を着た客がいたら、おかしいとなるわけだ。よく考えられている。

黄騰峡漂流(勇猛漂流)の起点

  救命具を来てゲートを出るとすぐに下へ向かう階段があり、その先の道の脇にヘルメットがたくさん積まれていた。明らかに水に濡れてびっしょりという様子なので、伸ばした手が一瞬宙で泳いで止まってしまった。積んである様子からしても、ゴミかと見紛うばかりだ。Zも手を伸ばすのを躊躇っている。
 「まぁ、水に入っちゃえば同じだよ」
 私が、自らに言い聞かすようにつぶやいて、ヘルメットを手に取ると、Zも続いて手を伸ばした。
 南方の人は体が小さい人が多いせいか、ヘルメットも小さめだ。最初に手に取ったヘルメットはサイズが合わず、三個目でようやくぴったりのヘルメットが見つかった。 首のところで留められるように紐がついているが、結び目のところが水を吸って固く締め付けられていて、ほどくことができない。やむなく、そのままヘルメットを装着し無理やり紐をあごの下へと通した。
 私たちがヘルメットを装着し終わったのを見定めて、そばに座っていた管理スタッフがすぐそばにかかっている橋を指差した。あっちへ行けということらしい。出発点は対岸側ということだ。

黄騰峡漂流(勇猛漂流)の起点

   水でぬめる橋の上を滑らないように慎重に歩いていると、Zが後から「ほらっ、みんな行っちゃうわ。速く歩いてよ」とはっぱをかけてきた。「うるさいな。滑って転んだら危ないだろ、それに写真もとらなくちゃいけないんだから」と軽くいなして先へ進む。最近はストレッチ運動に力を入れているからバランスを保つのには自信があるが、誤ってデジカメから手を離したりしたら大事だ。いくら防水 (水深)10M可のデジカメでも、川底に落ちたらどうしようもない。慎重に慎重を重ねて歩くのみだ。
 橋は川の反対側に着くと岩壁に沿い下流に向かって先へ伸びていた。橋の終わりの位置に小さな広場があり、そこに十数人の客たちと数人の管理スタッフたちが集っている。ここからボートが出ているようだ。

黄騰峡漂流(勇猛漂流)の起点

 川沿いに列を作っている客たちの後ろに私たちも続いた。上流から流れ落ちてくるボートを管理スタッフが長い棒でさばいて客の前へと移動させていく。 客はやってきたボートに二人一組で乗船し、対面になって座る。あとは川の流れに身を任せて下っていくだけだ。
 ボートは次々と出発し、瞬く間に私たちの順番が来た。まず体重の重い私が先に乗ってボートの重心を安定させてやり、次にZが乗った。Zも川下りは何度も経験しているはずなのに、少し怖いようで、恐る恐るといった感じでボートに腰を下ろした。ボートの両側には布製の取っ手がついていて、管理スタッフからそれをつかむように指示された。こんなものがついているということはやはり相当激しい川下りなのだ。さあ、出発だ。

   

 乗船地点から10メートルほどのところに最初の落差点がある。
 「Z、しっかり取っ手をつかめよ」と声をかけ、心の準備をした。落ちた衝撃で舌を噛んだりしたら大変だから、直前では声を出すこともできない。そして、バッシャーン。
 落差幅は1Mもないと思うが、1回で全身ずぶ濡れとなった。Zも同様である。Zは下流を正面にして落ちたため、水しぶきをモロに顔に浴び、半泣きの様子となった。

   

 また十数メートルほど穏やかな流れが続いたが、そこからが凄かった。バッシャーン、バッシャーン、バッシャーン。Sの字型に川が流れていき、曲がる度に急な傾斜をボートが落ちた。ボートがいつひっくり返るかとひやひやである。布の取ってから一時たりとも手が離せない。
 ようやく流れが穏やかになったときには、ボートの中は水でいっぱいになっていた。ボートは丈夫な構造をしているらしく、水がいっぱいになってもびくともせず浮いているのが頼もしかった。Zの顔をみると、すでに半泣きを通り越して、恐怖が顔に張り付いている。もしかして、もう帰るとか言い出さないだろうなと心配になったが、それはなく、急にヘルメットを外してボートの中の水をかき出し始めた。
 「大丈夫だよ。水がいっぱいになっても沈まないようになってるみたいだし」
 そう声をかけたが、耳に入らないらしく、懸命に水をかき出し続けた。 その間にもボートは流れ続け、次の落差へと向かって行く。再び、ドッボーン、ドッボーン、バッシャーンの連続。下手に息継ぎもできない。本当は、この激流の様を写真に撮りたいのだが、取っ手をもっていないと外に放り出されかねない状況ではとても無理だ。

   

 私の方が体重があるせいか、下に落ちる時はだいたい私が下流を背にして落ち、水しぶきもほとんど背中に浴びるだけで済む。ところが、Zは毎度のように正面から水を被るため、息継ぎがうまくいかず、何度も水を飲んでゲホゲホとやった。これは可哀想だ。勝気なZもめげてしまうかもしれない。
 「落ちるときは、口開けてちゃ駄目だよ。口閉じて!」
 「頭を少し下げて!水があたりにくくなるから」
 次の激流に突入する前に続けざまアドバイスを送った。
 「ほら、また顔が上がってる。少しだけ下げて」
 幾度か言っているうちに、Zもコツをつかみ、水を飲まなくなった。ようやく笑顔が戻り一安心。

   

 こうして1時間近く水にもまれた後、中間地点へと到着した。 私たちとほぼ同時に下ってきた客たちは同様にほっとした顔をしている。女性に至っては、激流の連続から開放されて放心状態に陥っている客も見られた。これで「勇猛漂流」の前半部分「 猛士漂流」が 終了。この先は「勇士漂流」の部分だ。この地点から始める客が大半らしく、川の上のボートと人が一気に数倍も増えた。 

   

 おそらく会社の同僚たちなのだろう。数十人がボートの上からお互いに水かけっこをしている。その間をくぐるようにして先へ進む。川くだりのテンポがぐっとスローになった感じだ。Zが「なんだか、寒くなってきたわ。どんどん下っていきましょうよ」と言ってきた。
 確かにそうだ。気温はそれほど低くなかったけれども、ずっと水に浸かっていたせいで体が冷えてきている。のんびりしていたら、凍えてしまいそうだ。Zが手で水をかいてボートを先へ進ませようとしているのをみて、私もヘルメットを外してオール代わりにして懸命に漕いだ。

   

 後半は前半に比べると、落差点が少なくずっと楽に下れた。数箇所に川幅が広くなっている場所があり、ボート同士で水のかけっこをしたり、ボートから降りて泳ぎを楽しめるようになっていた。川の水は清流と言って良いぐらい綺麗だから、景色も良いし泳ぐには最高だろう。水の流れが極端に遅くなっているところにはロープが張ってあり、それを手繰って前に進めるようになっている。私とZの二人はそのロープを二人で協力してひっぱりどんどん前へと向かった。

   

 ボートに乗って2時間、ようやく終点へたどり着いた。インターネットでは3時間ぐらいかかると書かれていたが、私たち二人は途中で一切止まらずに来たため、この速さで下れたということだろう。しかし、早く着いて損をしたという感じは全くない。度重なる激流に揉まれて、(よくぞ無事着けた)という気持ちだ。十分楽しんで、もう、クタクタ。雨も降り出し始めたし、さっさとホテルにチェックインしてゆっくり休みたい。
 重い足を引きずって、救命具を脱ぎ、ヘルメットを外してゲートをくぐって外へ出た。

   

 出発した広場に戻るのにどれくらいかかるだろうかと心配だった。徳慶の盤龍峡の時はけっこう歩いたからだ。だが心配は杞憂で、5分ほどで、広場に戻ることができた。カウンターで荷物を受け取り、更衣室へ入る。シャワーを思い切り浴びたかったが、お湯が出ず、冷水だけだったため、体をさらっと流して乾いた服に着替えた。塗れた短パンとTシャツはビニル袋に入れてリュックに詰めて外へ出た。

   

 Zは早々に着替えてロビーで待っていた。建物の入り口のところで暖かい生姜汁を売っていたので(一杯3RMB)、それを二人とも注文し、飲んだ (15:10)。少し体が温まり、人心地がついた。周囲に立っている人たちも、川下りから戻ったばかりらしく、私たちと同様生姜汁を飲んだり、焼きソーセージや焼きトウモロコシを食べたりしてがやがやとやって楽しげだ。心行くまで遊んだという感じだろう。

   

 さて、問題はここから。帰りの足がない。 実はこの広場へついたばかりの時、新しくオープンしたばかりのホテルを紹介するビラ配りの女性スタッフがいた。ビラをみたところ、良さそうな感じだったので、帰りの足はこのスタッフたちになんとかしてもらいホテルまで行ってしまおうと企んでいたのだが、雨のためか、ビラ配りのスタッフはいなくなっていた。
 しかたないので、当てもなく、広場から駐車場、駐車場から外へと向かった。途中にある小店で、バスがないかどうか尋ねてみたが、予想通りバスはないという答えが返ってきただけだった。「じゃあ、タクシーで来た客は何で帰るの?」とZが詰め寄ると、「もっと先へいったところにバイタクがいるよ」と投げやりな答えが返ってきた。
 確かに天気の良い日で、人の出が激しければ、客を求めてバイタクが集まってくることもあるだろうが、今日はツアー客ばかりのようだったし、天気も悪い。5分ほど歩いてもバイタクの姿が現れることはなかった。
 「困ったなあ。雨も強くなってきたし、ちょっとここで雨宿りでもしようよ」
 露店用に作られたと思われる小屋があったので、私は言った。
 「いやよ。私は歩くわ」
 Zが頑固に言い張る。
 「俺、ちょっと疲れたから・・・」
 そう、Zを説得しかけた時、私たちが歩いてきた方向からバイクが走ってきて、Zの横で止まった。
 客を送って戻るところで私たちを見つけたようだ。ホテルの位置を示すビラを見せると、バイタクの運転手は「30RMB」と料金をつけてきた。 雨の中、他に代わる交通手段がないことを見透かしたぼったくりの金額だ。
 「高いわ」
 後じさりながら言うZ。この状況でも敢えて値切ろうというZはすごい。私だけだったら、(まあ、しゃぁないな)と二つ返事でOKするところである。だいたい、この状況で、物別れになったらどうするというのだ。大通りに出るまでずっと歩けというのか。数時間はかかるぞ。
 「Z、仕方ないだろ」と私は日本語で妥協を勧めた。
 「駄目。高すぎるわ」
 しかし、Zは断固として応じない。
 Zの強い意志を感じたのか、バイタクの運転手は妥協案を出してきた。
 「バスがよく通るところまで送っていくから、それで15RMBでどうだ」
 「それって、どの辺よ」
 疑り深くZは追求した。
 「俺を信用しろ、ちゃんと連れて行くから」
   バイタクの運転手がりきんで言った。
 実際、どの辺かを説明されたところで土地勘のない私たちにわかるわけがない。信用するしかないのだ。
 「高いわ。それに途中までじゃなくて、ちゃんとホテルまで連れて行ってよ」
 Zは粘り強く交渉を続けている。天気が良ければ、いくら付き合ってもいいのだが、雨がどんどん強くなってきている。
 「もういいよ、15RMBで。行けるところまで行ってもらおう」
 そう、Zをなだめた。
 「いや!」
 しかし、返ってきたのは強い拒否だった。これでは説得は無理だ。強引にいくしかない。
 「ほら、早く乗って!はやく」
 強い、怒った口調で急き立てた。雰囲気を敏感に感じ取ったZは、渋々とバイクの後部に跨り、二人用の雨具の後ろ側を被った。(中国のバイタクの運転手は、雨の日、頭を出すところが二つついている雨合羽を着ていることが多い)。私もその後ろにくっついて座った。
 私たち二人が乗ったのを確認して、バイクは発車した(15:28)。
 「○○(私の名前)、傘さしたほうがいいわ」
 ますます速くなった雨脚を気にしてZが声をかけてきた。
 「いいよ。危ないから」
 雨で打たれても死ぬことはないが、風を受けて傘ごと飛ばされてはかなわない。
 「駄目よ。風邪ひくでしょ」
 「いや、いいよ。ホント危ないから」
 「大丈夫よ」
 「ゆっくり走るから、傘さしな」
 私たちの押し問答を見かねてバイタクの運転手が、口を挟んできた。
 「そうよ。ゆっくり走るから大丈夫よ」
 重ねるようにしてZが続けた。
 これは私が折れるしかなさそうだ。諦めて、折り畳傘を少しだけ広げて頭を覆った。
 バイクのスピードは相当緩んだものの、傘にかかる風の力はばかにならない。かと言って、これ以上スピードを遅くしてもらうのも考えものだ。なにしろ二輪車だから、一定のスピードを保っていないと不安定になると想像される。やはり傘を閉じて大人しく雨に打たれていたほうがいいのではと考えるが、Zが数分置きに「○○(私の名前)、ちゃんと傘さしてる?」と確認してくるのでそうもいかない。私が風邪をひきやすいのをよく知っているから心配してくれているのだ。仕方ない。いざとなったら、ぱっと手を離して傘を投げ捨てることにしよう。覚悟を決めて、傘を支える手に力を込めた。
 しかし、10分も走ると風を受けた傘の重さに辟易してきた。Zもそれを敏感に感じ取り、運転手に向かって「まだ着かないの?」とプレッシャーをかけ始めた。一生懸命値切ったのだから、できるだけ目的地の近くまでいってもわらなければならないはずなのだが、そんなことはもう頭野中にないようだ。
 「ねぇ、もうここでいいでしょ」
 タクシーが数台すれ違ったのをみて我慢できなくなったのか、Zがバイクを停めさせた(15:45)。
 「もう、この辺よね」
 下車しながら、Zは繰り返した。運転手にしてみれば、私たちを早く降ろせることに異存はなく、黙ってこくりと頷いた。乗車のときの約束ではバスに乗れるところまでという話だったから、金を値切られるかと不安そうな様子をみせたが、Zが15RMBを渡すと機嫌良くお礼を言って受け取った。さらに、Zがタクシーを停めるために手を振り上げると、運転手も一緒になって手を挙げて手伝った。
 幸い、タクシーはすぐにつかまった。先ほどバイタクにしたのと同様ホテルまでのビラをみせて料金交渉をし、30RMBとなった。バイタクの運転手は私たちが乗車するのを確認すると、走り去った。どうやら私たちがたちの悪い運転手につかまったりしないようにと見守っていてくれたらしい。
 「よかったわねぇ。すぐに乗れて」
 タクシーが走り出すと、Zが上機嫌に話し出した。
 「そうだなぁ」
 私が相づちを打つと、今度は運転手に向かって話しかけた。
 「清遠の有名な観光地ってどこなの」
 「観光地・・・」
 「そう、観光地」
 「そうだなぁ。ここ数年はやっぱり川下りだよ」
 「そうなの。私たちさっき黄騰峡漂流に行ってきたばかりなのよ。他には何があるの」
  「あとは太和洞かなぁ」
  太和洞は、天気が良かったら明日行こうと思っているところだ。運転手はあまり興味がなさそうだが、それなりに有名なのだろう。
  「他にないの」 

 「玄真漂流というのが良いらしいよ。この間、俺の友達が行ってきたんだ」
 「へぇー」
 そう言えば、黄騰峡漂流に行く途中、玄真漂流の看板を何度かみかけたきっと近くにあるのだろう。次回清遠に来たらそちらへ行ってみるのも悪くないかもしれない。
 太和洞についての話が出たので、突っ込んで聞いてみたが、運転手は行ったことがないらしく詳しい話は何も聞けなかった。
 やがて、ビラに書いてあったホテルの位置のそばまできたが、地図がおおざっぱだっため、周囲をしばらくウロウロし迷ってようやくホテルにたどり着いた(16:08)。
 ホテルの名前は「錦江之星」だ。ビラでみた限りでは全国展開しているチェーンの格安ビジネスホテルのようだ。ビラに書いてあった5月にオープンしたというのは本当のようで、ロビーは内装をしたばかりという感じで真新しかった。まずフロントへ行き、空き部屋の有無を確認した後、部屋の下見をさせてもらうことにした。料金はフロント横にある料金表をみると、一泊149RMBとなっていたので問題ない。
 

 部屋の中は、オープン間もないとあって、予想していたよりもはるかに綺麗だった。唯一の難点は浴槽がなくてシャワー設備だけだったことだが、中国の格安ビジネスホテル(商务酒店)はだいたいシャワー室のみなので、受け入れるしかない。フロントへ行ってチェックインすることにした。
 フロントへ行って料金を確認すると、現在は149RMBがオープン特価で割引され119RMBとのこと。現在は不景気でどこのホテルも値引きが激しいとは知っていたが、これだけ綺麗なところでこの料金なら十分満足できる。保証金を払ってチェックイン手続きを済ませた。

  部屋に入り、荷物を整理したら、早速シャワーだ。「黄騰峡漂流」にあったシャワー室は冷水しか出なかったから、ゆっくり汚れを落とすことができなかった。暖かいシャワーで気分をシャッキリさせよう。・・・と思ったが、おっ、お湯が出ない。正確に言うと、蛇口をひねってから数秒間は暖かい水が出てきたのだが、だんだん冷えてきてただの水になってしまった。パイプに冷たい水が残っていてお湯が巡ってこないのかなぁと楽観的に考えていたが、5分待っても、10分待っても全く暖かくならない。
 「もしかして、今日はお湯が出ないとか・・・」。私が心配を口にした。
 「そんなことないでしょ」
 そう言って、Zがフロントに電話をした。
 「○×▽■・・・・」
 しばらくやりとりが続いた後、「今故障中なんだって」とZが告げた。
 「故障中!だったら、このホテルはやめだ。別のところにしよう」
 いくら安くても、暖かいシャワーが浴びられないのでは意味がない。
 「いやよ。もうここでいいわ」
 「そんなことを言ったって、シャワーが使えないんじゃしょうがないだろ」
 「使えるわ」
 「Zは水でもいいかもしれないけど、俺は駄目だ。さっき、触ったけど冷たくて無理」
 「直れば暖かくなるわ」
 「直ればだろ」
 「直るわ」
 「何でわかるんだよ」
 「だって、フロントの人がそういってたもの」
 「・・・」
 なるほど、フロントの人が「故障中だけど、修理する」と言ったのか。
 「いつ直るんだよ」
 「今部品を買いに行っているんだって。30分ぐらいかかるって言ってたわ」
 「30分か・・・。それじゃあ、先に夕食を食べに行くか?」
 「いいわよ」
 シャワーは後回しにして、食事に行くことになった。帰ってくるまでに直っていることを祈る。

 外はすでに薄暗い。来た時と同様小雨が降ったままだ。ホテルの前でタクシーをつかまえ乗車。
 「老街の美食街(レストラン街)へ」とZが運転手に告げた。
 地図もなく、老街(旧市街)がどこかもわからない。タクシーは20分程度走って街の一角で停車した。
 老街というだけあって古ぼけた建物が多いが、周囲が暗いのであまり目立たない。とにかく、客が多い人気のある店で食べようということでZと意見の一致をみて、歩き出した。すると、すぐに小綺麗な店が2店ほど目に入った。近くによって中を覗いてみる。残念ながら、客がほとんど入っていない。これでは駄目だ。今度は逆に向かって歩いてみる。あった、あった、 客が店から溢れてテーブルが店の外にまで置いてある店があった。客が囲んでいるテーブルの上をみると、土鍋がグツグツと煮立っている。 いかにもうまそうだ。店の看板をみると、「明興猪肚鶏」とある。どのテーブルも客でいっぱいで座る場所あるかな?と思ったが、店の脇にある小道の対面に、もう一つ店があり、そこでも土鍋をやっていた。ウェイトレスが小道をいったり来たりしているところから、同じ店のようだ。 そちらの方はちらほら空いた席が見えたので、そちらに向かった。
 店内を覗くとちょうどクーラーのテーブルが空いていたので、そこに席をとった。すぐに店員が飛んできてメニューをくれた。メニューには普通の炒め物料理もあったが、せっかくなので、店の看板料理である豚(の内臓)肉と鶏肉の鍋にすることにした。 他に野菜やユバなどをオプションで注文し、あとは待つだけ。
 十数分ほどで、鍋が到着。コンロに火がつけられ、さらに十数分待ってから、野菜を入れた。さあ、まずはスープの味見だ。豚がメインのようだったから、豚骨風のこってりしていた味を想像していたのだが、実際にはあっさりした風味でスープだけ続けて飲んでいても飽きがこない味だった。スープがどんどん減っていくのをみて慌てたZが、「○○(私の名前)、ちょっと待って、スープがなくなっちゃうわ」と釘を刺しに来た。もちろん、スープだけでなく、豚肉も鶏肉も美味しかった。テーブルの上に置かれたテッシュのカバーを見ると、清遠市内だけで3店もあるようだ。マニュアル化されたチェーン店ではないようだから、本当に味一つで店が自然に広がったのだろう。清遠市にはこれから何度か来るだろうから、是非またこの店で食べてみたいものだ。料金もリーズナブルだったし・・・。
 

   

 食事を終えて外へ出ると、雨は一層強くなっていた。
 「飲み物買って帰らないとね」
 私が言うと、Zが頷いて同意した。ホテルの飲料は高いし、そもそも私たちが利用するクラスのホテルには飲み物が置いていないことも多い。だから、旅先で夕食をとった後は、ホテルに戻る前に飲み物を買うのが習慣になっていた。
 歩き出したものの、飲料を売っているような店が見当たらない。とうとう通りの突き当たりまで行き角を曲がった。すると、「・・・歩歩高」と文字をつけた門が建ってい るのが目に入った。奥には、ホテルらしき建物がある。そういえば、事前に検討した宿泊ホテルの中に、「歩歩高」と名のついたホテルがあった。中国で「歩歩高」というと、電気製品メーカーが有名だが、清遠市と何か関係があるのだろうか?Zに尋ねてみると、「『歩歩高』って東莞にもそういう名の鎮があるわよ」とのこと。それ以上のことはわからなかった。
 通りをさらに進むと、急に繁華街に出た。大きな商店街のようで、看板の光が遠くまで見えた。
 「なんだか、広州の上下九路に似ているわね」とZが感想をもらす。
 「そこまでの規模はないだろ」と私は否定したが、確かに雰囲気は似ている。
 しばらく歩いてみたかったが、雨がスコール並に強くなってきたので、近くにあった大型デパートに入ることにした。デパートの3Fぐらいのところにスーパーがあ り、その中をしばらくウロウロした。私が住んでいる街と同じ広東省内ではあるが、広東省だけでも日本の2分の1ぐらいの面積がある。そのため、納入業者・メーカーも違っているらしく、販売されている商品もいくぶん異なっていたりして面白い。Zは毎日買い物をすることもあって、値段をよく覚えていて、「あれはこっちが安い。あれはこっちが高い」と細かい意見を表明してみせた。
 いくつか飲料を買って、デパートの外へ出た。雨足は強いままだ。ちょうどタクシーが客を降ろしているのを見つけ、すかさず乗車。ホテルへ戻った。
 部屋に入るとシャワーはすでに修理されていた。汗を流して、本日は就寝。
 

   
2009年5月29日
 朝起きると雨は止んでいた。ホテルをチェックアウトして、外に出る。
  十分ほど歩いて外の空気を楽しんだ後、バスに乗車した。20分ほど走って着いたのは、昨日とは別のバス・ステーションだった。残念ながら、広州行きのバスは出ていない。昨日のバス・ステーションまで行かなければならないようだ。とりあえず、朝食でもとろうとバス・ステーションの外に出た。
 

 バス・ステーションから、それほど離れていない場所に大勢の客が集ったお店があった。半分露店のような店だが、内装が綺麗にしてあるので、衛生的な感じがする。私もZも腸粉を注文した。私のがエビ入り、Zのが肉入りである。Zはそれだけでは足らないと思ったのか、店先で別に売っているコーン粒入りの揚げ物を追加注文した。
 しばらく経ってテーブルに出された腸粉は、Zの方は美味しいようだったが、私のは外れだった。エビに十分に火が通っていないのか、或いはよく洗っていないのかはわからないが、なんとなく泥臭い匂いがしたのだ。腹が減っていたので一応全部食べたが・・・。

 食事を終えてから、その通りをまっすぐに抜けていった。珍しい屋台でもあればと期待したが、何も見つからなかった。広州のそばとあって、お粥系の屋台が多いのが目立った。古い住宅街だが、お店に活気があり、良い感じだ。こんなところに住んでみるのも楽しそうだ。

 通りの最後まで行ったところにちょうどバイタクが停まっていたので、それに乗って広州行きのバス・ステーションに移動した。

 

 バスに乗車して広州へ。広州では恒例のZのお買い物。市バス・ステーションのそばにアパレル店が集まっているデパートがあるのだ。いつも、Zが買い物している間は、私はマクドナルドそばのホテルのロビーにある喫茶店で時間をつぶしているのだが、今回はそれができなかった。以前はあったゆったりしたソファーが取り払われ、都会的な感じではあるが堅いチェアーに変わってしまっていたからだ。これではマクドナルドで座っていてもあまり変わらない。諦めて、市ステーションのケンタッキーで時間をつぶすことにした。 

 

 1時間ほど経ち、少し遅刻して戻ってきたZと合流し、我が街へバスで戻った。アパートに到着したのが夕方5時頃だった。今回は清遠市のもう一つの目玉である「太和古洞」へ行くことができなかったが、また別の機会があることだろう。そのときが来るのを楽しみにすることにしよう。